「消費者契約に関する検討会報告書」に対する意見

2021年10月08日

神奈川県消費者団体連絡会
事務局長 庭野 文雄

 消費者契約法は、消費者と事業者との間に、情報の質及び量並びに交渉力の面で格差があることから、消費者の利益の擁護を図り、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とした、消費者契約全般に適用される包括的な法律です。
とくに近年、高齢化の進行やデジタル化の進展、さらに成年年齢引き下げなど、消費者や消費者契約を取り巻く環境が急激に変化しており、環境変化に対応した法規制のあり方が問われています。
今回、消費者庁の「消費者契約に関する検討会」において、情勢の変化に対応した消費者契約法の見直しに向けた報告書がまとめられました。今回の報告書の方向性に基本的に賛成する立場から、以下の意見を申し述べます。

第1 消費者の取消権について

(1)困惑類型の脱法防止規定(報告書 第1の2.)

<意見>
「困惑類型の脱法防止規定」を設けることに賛成します。
<意見の理由>
法第4条第3項は、事業者の一定の行為により消費者が困惑して、契約を締結した場合における取消権を定めています(困惑類型)。
報告書に記載のとおり、困惑類型として8つの行為が列挙されていますが、各行為の基礎にある考え方が明らかではないこと、そのことから、これらの行為に形式的に該当しないものであっても、これらの不当性の実質的な根拠に照らすと同様に扱う(取消権を認める)ことが必要な場合もあると考えられます。
そのことから、法第4条第3項各号のうち、不退去(第1号)、退去妨害(第2号)、契約前の業務実施(第7号)、および契約前活動の損失補償請求(第8号)については脱法防止規定を設けることに賛成します。
さらに、第3号から第6号についても脱法防止規定を検討することが必要だと考えます。

(2)消費者の判断力に着目した規定(報告書 第1の4.)

<意見>
「消費者の判断力に着目した規定」を設けることに賛成します。
ただし、事業者の認識については悪意又は過失を要件とすべきだと考えます。
<意見の理由>
判断力の著しく低下した消費者が、自宅を売却して住むところを失うなど、自らの生活に著しい支障を及ぼすような内容の契約を締結してしまうという消費者被害が発生していますが、現在の消費者契約法はこうした事例を念頭においていません。したがって、「消費者の判断力に着目した規定」を設け、取消権を定めることに賛成します。
ただし、契約が当該契約者の生活に著しい支障を及ぼすことについての事業者の認識については、報告書は「悪意または重過失」を要件としていますが、悪意または過失を要件とすべきだと考えます。理由は、想定されている事例は、自宅を売却して住むところがない場合や、新たに収入がない中で貯蓄や年金収入の大半を消尽してしまうような限定された場合であり、消費者に与える被害の大きさから消費者保護を徹底すべきだと考えられることからです。

第2 「平均的な損害」について

(1)解約時の説明に関する努力義務の導入について(報告書 第2の3.)

<意見>
事業者に、違約金条項について不当でないことを説明する努力義務を課すことに賛成します。さらに、努力義務ではなく法的義務とすることができないか検討すべきです。
<意見の理由>
違約金条項について、消費者が、違約金が発生することが契約条項に明記されていたとしてもその金額が解除に際して不当に高額なのではないかと思い紛争に発展している場合には、事業者からの十分な説明がないことが要因となっている場合が多いと考えられます。
したがって、違約金の考慮要素や算定基準について消費者は事業者からの説明を求めることを可能とすべきだと考えます。
しかし、報告書のように、努力義務とした場合には実効性が期待できないことから、消費者保護を徹底する見地から、法的な義務を課すべきだと考えます。

(2)立証責任の負担を軽減する特則の導入(報告書 第2の5.)

<意見>
消費者の立証責任の負担軽減のため積極否認の特則の規定を設けることに賛成します。
<意見の理由>
「平均的な損害」の額は、その事業者に固有の事情であり、その主張立証に必要な情報は事業者に偏在している事例がほとんどだと考えられることから、立証責任の負担の軽減が必要です。
「平均的な損害」に関する違約金条項の効力に係る訴訟において、事業者が、その相手方が主張する「平均的な損害」の額を否認するときは、その事業者は自己の主張する「平均的な損害」の額とその算定根拠を明らかにしなければならないとする規定、いわゆる積極否認の特則の規定を設けることで、解決に向かう事例が増えることが期待できます。

以上