「サルコペニア」をご存じでしょうか。

2021年02月24日

サルコペニアとは、加齢や疾患により、筋肉量が減少することで、握力や下肢筋・体幹筋など全身の「筋力低下が起こること」を指します。または、歩くスピードが遅くなる、杖や手すりが必要になるなど、「身体機能の低下が起こること」を指します。
75歳~79歳では男女ともに約2割の方が、80歳以上では男性の約3割、女性では約半数がサルコペニアに該当するそうです。
高齢者がサルコペニアになると死亡、要介護化のリスクが高まります。
東京都健康長寿医療センター研究所の長期間にわたる追跡調査によれば、サルコペニアになると死亡や要介護化のリスクがいずれも約2倍も高まるそうです。
健康寿命の延伸のためには、サルコペニアの予防及び改善を図ることが大切です。
厚生労働省ではお薦めのトレーニングを、「安全かつ効果的に『足腰』を鍛える」、「QOLの維持・向上」の2つの切り口から呼び掛けています。

安全かつ効果的に「足腰」を鍛える方法

強い足腰は活動的な日常生活をおくるうえで非常に重要です。お勧めのトレーニング法は椅子から立ち上がって座る「椅子スクワット」です。膝への負担が小さく安全に効果的に足腰を鍛えることができます。また足を前方に振りだす筋力を鍛える腿あげ運動も合わせて行うとよいでしょう。

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QOLの維持・向上に大切な筋肉は?

立ったり歩いたり姿勢を維持したりといった日常動作の基盤となる筋肉が、QOL(Quality Of Life:生活の質)に強い影響を与える筋肉といえます。具体的には太腿前の大腿四頭筋・お尻の大臀筋・腹筋群・背筋群があげられます。これらの筋肉を鍛えるトレーニングを継続的に行うこと、また日常から活動的な生活を送ることが大切です。

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東京都健康長寿医療センター研究所のプレスリリースをご覧ください。

<プレスリリース>「日本人高齢者のサルコペニアの有病率、関連因子、 死亡・要介護化リスクを解明」

発表の概要

東京都健康長寿医療センター研究所の北村明彦研究部長らの研究グループは、日本人の一般高齢者1,851人の約6年間の追跡研究により、サルコペニアの有病率、関連因子、死亡・要介護化リスクを明らかにしました。75~79歳では男女ともに約2割、80歳以上では男性の約3割、女性の約半数がサルコペニアに該当し、サルコペニアになると死亡、要介護化のリスクがいずれも約2倍高まることがわかりました。健康寿命の延伸のためには、サルコペニアの予防及び改善を図ることが有効であると考えられます。
本研究は、国際誌である Journal of Cachexia, Sarcopenia Muscleに掲載されました。

研究の背景

サルコペニアとは、筋肉量や筋力が一定以上に減少する病態であり、転倒や様々な日常生活動作に支障をきたす原因となります。サルコペニアの研究は欧米諸国を中心に発展しており、欧米人よりも筋肉量の少ない日本人を対象とした研究は未だ散見されるのみです。また、サルコペニアの有病率、関連因子、死亡・要介護化リスクを一括して検討した研究成績は世界的にも乏しい状況です。健康のバロメーターとして「筋肉」が注目される中で、日本の高齢者におけるサルコペニアの実態と危険度を明らかにし、その予防や改善につなげていくことが健康長寿の実現に貢献するものと考えられます。

研究成果の概要

群馬県と埼玉県の地域の高齢者健診受診者計1,851人(平均年齢72歳)を対象に、平均5.8年間(最大9.5年)の追跡研究を行いました。サルコペニアの定義はアジア人の基準(AWGS 2019)に基づき、筋肉量の一定の減少(四肢骨格筋指数が男性で7.0kg/m2未満、女性で5.7kg/m2未満)に加えて、筋力・身体機能の一定の低下(握力低値:男性で28kg未満、女性で18kg未満、または歩行速度の低値:男女ともに毎秒1m未満)が認められた場合にサルコペニア有りと判定しました。
その結果、サルコペニアの有病率は、年齢とともに上昇し、75~79歳では男女ともに約22%、80歳以上では男性の32%、女性の48%がサルコペニアに該当していました。サルコペニアの人はそうでない人に比べて、男性では「身体活動が少ない」「血液中のアルブミン濃度が低い」「喫煙者が多い」「最近1年以内の入院が多い」、女性では「うつ症状が多い」「認知機能の低下が多い」ことがわかりました。
また、サルコペニアの人は、筋肉量、筋力ともに低下していない人に比べて、総死亡リスクは男性で2.0倍、女性で2.3倍高く、要介護発生リスクは男性で1.6倍、女性で1.7倍高くなることが明らかとなりました


一方、サルコペニア予備群(筋肉量は少なくても筋力・身体機能が一定維持されている人、及び筋力・身体機能が弱くても筋肉量が一定維持されている人)では、総死亡リスク、要介護発生リスクともに有意には高くならないという興味深い結果も示されました。この点については、性差や基礎疾患による影響、若い頃の筋肉量・筋力と高齢期になってからの筋肉・筋力の減少度によってリスクが異なる可能性があることから、今後の研究課題と考えられます。

研究の意義

本研究によって、後期高齢者ではサルコペニアの人が多いことが示されました。そしてサルコペニアの高齢者は、死亡及び要介護発生のリスクが高く、いわゆる自立喪失の危険性が高いことが明らかとなりました。したがって、高齢期のサルコペニアを早期発見し、運動や栄養等の生活習慣の改善等によって、その進行を食い止めることは健康寿命の延伸に貢献すると考えられます。その一環として、高齢者の保健・介護予防分野に筋肉量や筋力の評価が組み込まれること、及び高齢者の筋肉の維持に関する効果的な介入方法が見出されることを期待いたします。

掲載論文

Kitamura A, Seino S, Abe T, Nofuji Y, Yokoyama Y, Amano H, Nishi M, Taniguchi Y, Narita M, Fujiwara Y, Shinkai S. Sarcopenia: prevalence, associated factors, and the risk of mortality and disability in Japanese older adults. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2020 Nov 25. doi: 10.1002/jcsm.12651.

 

(問い合わせ先)

〒173-0015 東京都板橋区栄町35-2
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム 研究部長 北村明彦
電話 03-3964-3241 内線4250  kitamura@tmig.or.jp

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