早わかり健康長寿の秘訣(東京都健康長寿医療センター)

2021年05月06日

第1話 長寿伝説

長寿伝説

キリスト教やユダヤ教の伝説では、在任期間が3万年を超える王たちが存在します。ノアの方舟で有名な、大洪水以前の人物たちが異常に長命で、大洪水以降、人間の寿命は徐々に短くなっていきます。
アダムの寿命は930年、ノアは500年、アブラハムは175年と書かれています。中国でも秦の時代、崔文子という医師は、300年生きたと記載されています。

現代の長寿者

現代の長寿者ネパールのナラヤン・ショードリーさんは、自分は141歳だと主張ロシアのアゼルバイジャン地方で庭師をするシサリ・ミスリンローさんは、自分は170歳だと主張いずれも公文書がないため確認できません。
人間は120歳以上は生きられないという科学的証拠はギネスに載っている長寿記録からわかります。(下図参照)
次回は、日本人の寿命の変化についてお話しします。

(ウィキペディアから引用)

第2話 時代による平均寿命の変遷

時代による平均寿命の変遷

江戸時代から、明治、大正、昭和の時代は、感染症(結核など)から、生活習慣病(脳卒中)を経て、死因がガンに移っていきました。
世界でも、経済が豊かになればなるほど寿命はのび、これは栄養や、衛生環境の改善によるものと考えられています。明治維新から昭和の初期まで、目覚ましい工業の発展、農業改革によって日本経済は発展し、順調に寿命がのびました。
これが第二次世界大戦(太平洋戦争)で一転します(青い矢印)。戦後急速な復興、衛生環境の整備、抗菌剤の登場で寿命は劇的に改善します。
さらに、1960年代に国民皆保険となり、日本人が欧州を抜いて世界最長寿国に上り詰めたのです。2000年に開始された介護保険がさらに75歳以上の寿命を延ばしました。

第3話 健康寿命

健康寿命

今日からは、健康長寿について、日常生活に役立つ情報を、わかりやすく解説していきます。
東京都健康長寿医療センターの目的は、一言で言えば、健康寿命を延ばし、できるだけ生活の不自由がないように心と体の調子を整える医療とケアを行うことです。
さて、健康寿命とはどういうことかご存知ですか? 一般に知られている「平均寿命」は生まれた赤ちゃんが何才まで生きられるかを示したものです。
これに対して「健康寿命」は生活に支障がなく生きていける年数で、日本は現在世界で2番目です。

寿命から健康寿命を引いた年数は、日本を含む先進国で6〜7年間で、平均寿命が50歳に満たない発展途上国では8〜9年間で、長命は長寿であり、「長生きしても寝たきり期間が長くなるだけ」と言った俗説は間違っています。
多くの慢性の病気が、生活の自立を損なうことは周知の事実で、その自立を損なう原因を少なくする「予防的な取り組み」が求められています。
次回は自立を損なうプロセスが共通の道筋を通る話をします。

第4話 健康寿命を損なう共通の道

多くの慢性の病気が、生活の自立を損なうことは周知の事実で、その自立を損なう原因を少なくする「予防的な取り組み」が求められています。自立を損なうプロセスが共通の道筋について話をします。
ほとんど全ての病気になる最も危険な因子は何でしょう? それは加齢です。しかし、80歳でもかくしゃくとして元気な方もいます。 持病のため、初老期から生活が不自由な方もいらっしゃいます。 生活の自立を妨げる最も大きな原因は「病気」と言ってもいいと思います。
しかし若い時には少々の病気でも寝込んでいる期間は短く、回復すれば何不自由なく、元の生活に戻れます。ところが80歳を過ぎると、入院をきっかけに、半数の方が元どおりになるのに何ヶ月もかかるようになります。このような病気というストレスに弱い状態を「フレイル」と言って、要介護になる前の「ひ弱な」状態を指します。この道筋を理解すると、病気になっても元気に戻るにはどうしたらいいかの手がかりが得られます。

次回は特にどんな病気が特に問題かについて話します。

第5話 寝たきりの原因疾患

生活を損なう原因となる病気は何でしょう?
死亡率の最大の原因の病気であるガンでしょうか? そうではありません。
太平洋戦争後、結核に代わって半世紀以上、ずっと脳卒中(脳血管障害)が、寝たきりの原因の第一位でした。2016年、国民生活調査で、「認知症」が一番の原因になり、当面これが変わることはなさそうです。一方、一見別々に見える高齢による衰弱、関節疾患、転倒骨折は、筋骨格系の移動能力の低下が共通因子で、ストレスに弱い「フレイル」という括りでまとめられます。
この合計は要介護の原因の1/3以上をしめます。

厚生労働省 国民生活基礎調査(2016)を参考に著者が作成
フレイルと認知症で、寝たきり原因の6割以上を占めることから、次回からまずフレイルの考え方と予防のシリーズを始めます。

第6話 フレイル

フレイルは「加齢や慢性疾患の積み重なりによって脆弱でストレスによって、生活自立が損なわれやすい状態」と定義されています。
何万人という世界中の住民の調査によって、フレイルの人に見られる5つの共通の項目を調べることが、フレイルの発見に役立つことがわかってきました。
1)歩行速度低下(<1m/秒)
2)握力低下(<26kg;男性、<18kg;女性)
3)易疲労感(わけもなく疲れたような感じがする)
4)身体活動性低下(運動・体操はしていない)
5)体重減少(6か月間>2kg)
1)〜5)で3項目以上でフレイル、1,2項目でフレイルの前段階のプレフレイル
この評価方法は測るのに人手がいるため、自分や家族が気づく方法として、
1)横断歩道を渡るのに難渋することがある (1m/秒で渡れる設計になっている)
2)ペットボトルが開けにくい、牛乳紙パックが開けられない
3)疲れた顔をしている
4)家の中にいて体を動かさない
5)痩せてきた
と言った、見かけや観察が重要です。
少しでも当てはまれば、東京都健康長寿医療センター高齢者診療科にお越しください。
次回は、フレイルはなぜ早く見つける必要性があるかについて話します。
 

第7話 フレイルはなぜ早死に?

フレイルと診断されると、元気な人に比べ早く亡くなることが大規模な調査で分かっています。
7年間で元気な方が半分亡くなる年齢で、フレイルの方は7割り方お亡くなりになっています。

どうしてでしょうか?

最大の原因はフレイルは、ほっておくと寝たきりになりやすいからだと考えられますが、その過程で、転倒骨折が2倍以上起きやすいことが挙げられます。転倒して大腿骨頸部骨折を起こすとガンと同じくらい怖いと知っていますか?大腿骨頸部骨折を起こすと男性、女性とも平均して10年以内に亡くなっています。骨折の9割は転倒によるものですから、転倒予防が重要なことがお分かりと思います。
次回は転倒の危険を早く見つける方法について話します。

<続く>