「食品ロス削減の推進に関する基本的な方針(素案)」に対する意見

2020年01月30日

消費者庁 消費者教育推進課
意見募集ご担当者様

神奈川県生活協同組合連合会
代表理事会長 當具 伸一

「食品ロス削減の推進に関する基本的な方針(素案)」に対する意見

日本では、まだ食べることができる食品が、生産、製造、販売、消費等の各段階において日常的に廃棄され、大量の食品ロスが発生しています。他方で、社会には生活困窮により必要な食べ物を十分に入手できない人々も多数存在しており、まだ食べることができる食品については廃棄することなく活用することが求められています。また、国際的にも、2015年の国際連合総会において採択された持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)において言及されるなど、その削減が重要な課題となっており、また、世界には栄養不足の状態にある人々が多数存在する中で、とりわけ、大量の食料を輸入し、食料の多くを輸入に依存している我が国として、真摯に取り組むべき課題となっています。

生活協同組合(生協)は、消費者が共通の利益を実現するために協同して運営する組織です。「人間らしいくらしの創造と持続可能な社会の実現」を理念に掲げ、地域や地球環境の持続可能性を大切にした事業と活動を推進しています。食品ロスに対して、神奈川県内の生協においては、事業では宅配や店舗事業で発生する食品廃棄物の抑制に努めることはもとより、フードバンクの活動への支援や、組合員による自主的な活動として、エシカル消費として食品ロスについての学習やフードドライブを実施するなどの取り組みを進めています。

今回示された、「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針(素案)」は、国民的にも関心が高い課題について、国内のあらゆる主体が連携しながら、さらに抜本的な施策に取り組むことを示しており、歓迎すべきものであると捉えております。

そのような立場から、この「食品ロス削減の推進に関する基本的な方針(素案)」(以下、基本方針素案)に記載された施策が、日本の食品ロス削減対策を促進する中身となることを期待し、下記6点を要望します。

1.「食品ロス削減」が「エシカル消費」の一環であるという位置づけを明確にしてください。

【該当箇所】

・「はじめに」(P1)
・Ⅰ 食品ロスの削減の推進の意義及び基本的な方向

1食品ロスを取り巻く現状と削減推進の意義(P1-2)
3基本的な方向(P3)
【意見】
「食品ロス削減」は「エシカル消費」の取り組みの重要な一領域であることから、あらゆる主体がその意識を持って取り組みを進められるよう基本的な方向性の中に「エシカル消費の推進」や「エシカルな商品の普及」を明示すべきです。
【理由】

「エシカル消費」は、2015年に消費者庁に設置された「倫理的消費」調査研究会での2年間の議論を経て整理され、その後、消費者庁を中心に様々な省庁をはじめ、多様な主体が普及に向けて様々な取り組みを展開しています。

エシカル消費で対象とする課題はそれぞれつながっており、基本方針素案に記載されているように、食品ロスの課題も「食品廃棄」「人口問題」「飢餓」「気候変動」など様々な社会課題と切り離せない関係があります。

単純に「食品ロス削減」という一社会課題に限定をせず、あらゆる主体がその意識を持って食品ロス削減を推進できるよう明示をお願いいたします。

 

2.外食時の持ち帰り、あるいはフードバンク活動における、事業者の責任について明示してください。

【該当箇所】
Ⅱ.食品ロスの削減の推進の内容に関する事項
2 基本的施策
(2)食品関連事業者等の取組に対する支援(P8)
(6)未利用食品を提供するための活動の支援等(P9-10)
【意見】
外食時の持ち帰り、あるいはフードバンク活動について、適切に商品や食材を取り扱った際の事業者の責任を免除するための制度やガイドラインの策定を具体的に明示すべきです。
【理由】

現在、日本でも外食時の食べきりや持ち帰りを促す取り組み(ドギーバック等の取組)や、フードバンク活動が広がりを見せていますが、いずれも関係者の自主的な取り組みとなっています。

外食時の食べきりや持ち帰りについては、2017年5月に、消費者庁に加え、農林水産省・厚生労働省・環境省の連名で「飲食店等における『食べ残し』対策に取り組むに当たっての留意事項」が発出され、2019年5月には、消費者庁・農林水産省・環境省の連名で「外食時のおいしく『食べきり』ガイド」が発行されています。しかし、その一方で持ち帰った食品によって事故が発生した際に外食事業者に指導が入る可能性は残されており、外食事業者の懸念を払しょくするためにはさらに踏み込んだ制度的な整理が必要だと考えます。

また、フードバンク活動では、未利用食品の提供を行う企業等とフードバンクの間で契約書・覚書等が取り交わされてはいるものの、企業等が適切に管理をしている食品だとしても万が一事故等が発生してしまう事態を恐れて、フードバンクへの食品提供をリスクと考えて実施できないという声が聞かれます。その一方で、諸外国では事故発生時に食品提供者の責任を免除する法律が、米国、カナダ、オーストラリアなど複数の国で制定されています。

上記を踏まえ、事業者側が食品ロス削減の取り組む際の懸念やリスクを最小限にし、存分に様々な取り組みを行えるよう、制度やガイドラインをさらに整備する必要があると考えます。

 

3.食品リコールにあたっての自主回収について、関係省庁と連携し、運用の原則について検討してください。

【該当箇所】
Ⅱ.食品ロスの削減の推進の内容に関する事項
2 基本的施策
(2)食品関連事業者等の取組に対する支援(P9)
【意見】
食品リコールにあたっての自主回収について、関係省庁と連携し、運用の原則について検討してください。
【理由】

食品衛生法が改正され、食品リコール制度が創設されました。この制度は、食品のリコール案件のうち、安全性に関するもののみについて届出を求めるものです。安全性に関係のあるものだけをデータベースに掲載することで、無駄な食品ロスを減らす目的もあります。

消費者庁は、厚生労働省など関係省庁と連携し、制度運用の合理的原則を検討してください。

 

4.フードバンクへの支援を強化してください。

【該当箇所】
Ⅱ.食品ロスの削減の推進の内容に関する事項
2 基本的施策
(6)未利用食品を提供するための活動の支援等(P9-10)
【意見】
フードバンクが継続的・安定的に発展できるよう、人材育成や事務所・倉庫・配送用車両等のインフラ整備など、フードバンク団体の基盤強化に対して国や自治体が支援していくことを明記すべきです。
【理由】

フードバンクは、無償で寄附された食品を無償で福祉施設や生活困窮者に提供する活動のため、活動そのものから収益を得ることができません。このため、日本の多くのフードバンクが、活動を持続していくための事業費の確保や、食品の保管・配布などのインフラ整備や人手不足などの課題を抱えています。

欧米のフードバンク団体が安定して事業を実施できるのは、豊富な民間からの寄附に加え、政府や自治体による公的資金の投入・支援によるところが大きいと言えます。

フードバンク活動は、食品ロスの削減による環境負荷の低減のみならず、福祉の増進や災害時の食糧支援など極めて公益性の高い活動であり、フードバンク団体の基盤強化のための公的支援の意義や社会的効果も高いと考えられます。

 

5.基本方針の実施状況を点検する際の重点指標や項目を明示してください。

【該当箇所】

Ⅱ.食品ロスの削減の推進の内容に関する事項

4 実施状況の点検と基本方針の見直し(P12)

【意見】
基本方針の実施状況を点検する際の重点指標や項目を明示すべきです。
【理由】
現在、基本方針素案の目標は、「Ⅲ・3」にて示されているとおり、「食品ロスの削減目標等(2000年度比で2030年度までに食品ロス量を半減)」を達成すると示されており、その目標達成に向けての進捗確認や施策の実施状況の検証は「Ⅲ・4」について示されるという構造になっています。しかし、現在は必要な体制整備や進捗確認を行うこと等のみが記載されており、施策の実施状況を管理する指標・項目が明示されていません。地方自治体が基本方針に基づき策定する食品ロス削減計画を実行性のあるものにするためにも、基本方針の目標達成に向けて着実に施策を実施するためにも、必要な体制の整備に加えて、施策の効果を検証するための重点指標や項目の設定が欠かせないと考えます。

 

6.都道府県と市町村の役割を明確にしてください。

【該当箇所】

Ⅲ.食品ロスの削減の推進の内容に関する事項

1 地方公共団体が策定する食品ロス削減推進計画(P10-11)

【意見】
地方公共団体が食品ロス削減推進計画を策定する際の都道府県および市町村の役割の明確化を記載すべきです。
【理由】
現在、基本方針素案にては都道府県及び市町村が策定する際に留意すべき事項はすべて一律に記載がされており、それぞれの果たすべき責務や役割分担については明記されていません。一般的に都道府県と市町村では廃棄物に関する管掌範囲も異なることや、各地での食品ロスに対する取り組み内容も異なるなど地域特性が出てくると考えられます。そのような状況でも都道府県と市町村が緊密かつ柔軟に連携し各主体の取り組みがスムーズに実施されるように、役割分担の例示や計画策定のためのガイドラインを設けるなどの対応を求めます。

以上