エネルギー基本計画(案)に対する意見

2021年09月23日

経済産業大臣
梶山 弘志 様

エネルギー基本計画(案)に対する意見

神奈川県生活協同組合連合会
代表理事会長 當具 伸一

2011年3月、東京電力福島第一原子力発電所事故から10年が経過しました。東日本全体が壊滅する可能性すらあった大惨事を経験し、多くの国民が原子力発電に依存する必要のない社会の実現を望みました。神奈川県生活協同組合連合会は、「原子力発電に頼らない社会をめざして、省エネルギー再生可能エネルギー推進」の取り組みを、消費者・組合員とともに進めてまいりました。
また、持続可能な社会の実現に向け、2018 年度にIPCC が「1.5℃特別報告書」で「2050 年のCO2 排出量を実質ゼロにする必要があること、2030 年には2010年比で約45%削減が求められること」を提起したように、気候危機対策の強化は焦眉の課題です。2020 年からのパリ協定本格運用開始や、2020 年10 月の菅首相による「2050 年カーボンニュートラル(CO2排出実質ゼロ化)」発言などを踏まえれば、2050 年カーボンニュートラルの実現に向けて、今回のエネルギー基本計画の見直しは特に重要なものになると考えます。

上記を踏まえ、エネルギー基本計画の見直しにあたり、持続可能な社会の実現につながる計画となるよう、下記5点を要望します。

 

(4ページ「はじめに」)
(17ページ 3.エネルギー政策の基本的視点(S+3E)の確認)

1.エネルギー政策の推進においては、財政上の観点も踏まえる必要があることから、再生可能エネルギーの主力電源化施策を最優先としたエネルギー基本計画とすべきです。

今回の案では、「はじめに」の項で、「S+3Eを大前提に、2030 年の新たな削減目標や2050 年のカーボンニュートラルという野心的な目標の実現を目指し、あらゆる可能性を排除せず、使える技術は全て使うとの発想に立つことが今後のエネルギー政策の基本戦略となる」との考え方が示されています。
しかし、国家財政が逼迫し財政健全化が課題となる中で、考えられる技術の全てに対して財源を投入するような政策をとれば、財政赤字の一層の増大につながり、気候変動問題同様に将来世代への負担をもたらす事態となります。施策の優先順位付けを行い、「選択と集中」を図ったエネルギー基本計画とすべきです。
具体的には、気候危機が人類共通の喫緊の課題であること、再生可能エネルギーの発電コスト低下が進んでいることもふまえ、再生可能エネルギーの主力電源化施策を最優先とすること、原子力発電については安全面・技術面・コスト面からも稼働ゼロに向けて工程を具体化すること、国際的にも批判の強い石炭火力発電については全廃すること、を柱に組み立てるべきです。

(7ページ 1.東京電力福島第一発電所事故後10年の歩み)
(65ページ (6)原子力政策の再構築)
(104ページ 2030年度におけるエネルギー需給の見通し)

 

2.原子力発電については、稼働ゼロに向けた工程を具体化すべきです。

今回の案では、2030年度の電源構成における原子力は20~22%程度を見込むとしています。
しかしながら、基本計画(案)7ページにも記載されている通り、「可能な限り原発依存度を低減」させることは、東京電力福島第一原子力発電所事故を発生させてしまった日本のエネルギー政策の大前提であり、原発再稼働ゼロに向けた工程を具体化すべきです。また、高速炉・小型モジュール炉等の研究開発の推進なども中止すべきです。
理由は以下の通りです。
東京電力福島第一原子力発電所の事故が未だ収束しておらず、東京電力柏崎刈羽原子力発電所における核物質防護不備の問題が発生するなど、原子力に対する国民の信頼は得られていません。地震や津波、人為的なミスなどさまざまな原因によって、またいつ次の大事故が起きても不思議ではありません。そして一旦事故が起きれば不可逆的な被害につながってしまいます。
また、使用済み核燃料の処理問題について解決策が見出されていない状況であり、このままでは将来世代に負担を先送りすることになります。
さらに、 2030年には太陽光発電のコストが原子力発電のコストを下回るという試算も示されており、コスト面からも原発依存から離脱すべきです。
なお、「原子力の安定的な利用」が強調されていますが、原発は電力需要の変化に合わせて出力が変えられないことから再エネの出力抑制につながってしまうという問題を持っています。また大きな地震があると原発はいっせいにとまってしまい、そして一旦停止した原発は、再稼働する前に多くの時間がかかることから、安定的な電力供給源とは言えないと考えます。

 

(50 ページ(5)再生可能エネルギーの主力電源への取組)
(104 ページ(13)2030年度におけるエネルギー需給の見通し)

3.再生可能エネルギーについては最大限の導入を図り、2030 年の電源構成比率は国際的水準である50%以上とするべきです。

今回の案では、2030 年の電源構成における再生可能エネルギーは36~38%程度とされました。しかし、、IPCC 特別報告書が1.5℃目標を達成するシナリオとして、2030 年の時点で世界の電力の48%から60%を再生可能エネルギーで供給することを想定していることや、欧州などでは2030 年再生可能エネルギー目標5割以上を掲げていることなどをふまえると、2030年の電源構成比率は国際水準である50%以上とするべきです。
経済産業省が7月、2030 年時点の原子力や再生可能エネルギーなど電源別発電コストの試算を公表しましたが、原子力よりも大規模太陽光の方が安いという結果となりました。再生可能エネルギーには化石燃料の輸入が不要になることや、緊急時の分散型電源、地域経済の活性化への寄与・雇用創出など多くのメリットがあることなどもふまえ、再生可能エネルギー優先接続などの電力システム改革を引き続き進め、再生可能エネルギーの最大限の導入をはかるべきです。

 

(75 ページ(7)火力発電の今後の在り方)
(104 ページ(13)2030年度におけるエネルギー需給の見通し)

4.火力発電については、カーボンニュートラルの実現に向けて、石炭火力発電の全廃に向けた計画を立てるべきです。

今回の案では、2030 年の電源構成における石炭火力は19%とされましたが、国際的にはESG 投資の進展もあいまって、石炭火力発電の2030 年までの廃止に向けた動きが進んでいます。今後は、石炭火力発電については温室効果ガス削減に向けた対策費用が増え、経済性の観点からも石炭火力より太陽光など再生可能エネルギーを促進することが合理的となっていく情勢です。気候変動対策の観点からも再生可能エネルギーを促進すべきであり、カーボンニュートラルの実現に向けて、石炭火力は2030 年ゼロを目指して具体的な計画を立てるべきです。調整力電源には天然ガスを据えるべきと考えます。
なお、アンモニア・水素等の脱炭素燃料の混焼や、CCUSに言及されていますが、カーボンニュートラルの実現が課題となる中で、そもそも石炭火力発電を残すという前提に立った発想自体を見直すべきと考えます。

 

(124 ページ7.国民各層とのコミュニケーションの充実)

5.「国民各層とのコミュニケーション」については、その実質化のためにも、若い世代や環境団体などの消費者参加の場を保障することを求めます。

この間、政府からは「2050 年カーボンニュートラル」「再エネ主力電源化」「石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換」「原発依存度は可能な限り低減」といった方針が発信されてきた一方で、今回の案は石炭火力・原子力発電を維持する計画となっています。国民にとって政府がどのような方向性を目指しているのかが分かりづらく、エネルギー政策への国民理解の壁となっています。エネルギー基本計画は十分に国民に理解されたうえで策定されることが重要です。そのためには政策プロセスの透明化や双方向的なコミュニケーションの充実が不可欠であり、若い世代や環境団体をはじめ、消費者の実質的参加の場を確保すべきです。

以上