「特定商取引に関する法律施行令及び預託等取引に関する法律施行令の一部を改正する政令(案)」に対する意見(県消団連)

2022年12月29日

神奈川県消費者団体連絡会
事務局長 庭野 文雄

特定商取引法・預託法改正は、2021年の通常国会にて可決・成立し、販売預託商法の原則禁止や、詐欺的な定期購入の規制などが施行されました。一方で、契約書面等の電子化を認める事項については、多くの団体が反対しましたが、法改正に盛り込まれ、詳細は政省令で定めることとなりました。

法改正にあたっては、参議院令和3年(2021年)6月4日付帯決議において、「消費者が承諾の意義・効果を理解したうえで真意に基づく明示的な意思表明を行う場合に限定されるなど、書面交付義務が持つ消費者保護機能が確保されるよう慎重な要件設定を行うこと」、ならびに「書面交付の電子化に関する承諾の要件を検討するに当たっては、悪質業者の手口や消費者被害の実態を十分に踏まえた上で、学識経験者、消費者団体、消費生活相談員等の関係者による十分な意見交換を尽くすこと」が確認され、この付帯決議をふまえて設置された消費者庁「特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会は、約1年にわたり検討を行ったうえで報告書を取りまとめました(以下、「検討会報告書」と記載)。

今回提示された「書面電子化に関する報告書に基づいた政省令(案)」においては、「検討会報告書」から一部後退した部分もあることから、以下、意見を述べます。

 

1.電子機器の画面サイズの修正を求めます

(該当箇所:特定商取引に関する法律施行規則の一部を改正する命令案第10条1項4号)

(意見)

電磁的方法により提供される事項を閲覧するために必要な電子機器について、最大径をセンチメートル単位で表した数値を2.54で除して小数点以下の四捨五入で5以上となっていますが、「検討会報告書」では、適合性として「書面並みの一覧性(=面積)の有する形で交付書面と同様の内容について表示可能な機器」とされており、大きく後退しています。一覧性を確保するため、例えば交付書面がA4版であればタブレットにするなど、消費者が閲覧する電子機器は、契約書面の交付書面の大きさに合わせた面積が必要です。

(理由)

① そもそも、スマートフォンの画面では、契約書の内容の確認やクーリング・オフの記載に気が付かないおそれもあるとして、「書面並みの一覧性(=面積)の有する形で交付書面と同様の内容について表示可能な機器」として「検討会報告書」にまとめられたものです。「検討会報告書」は、事業者団体を含む多くの関係者のヒアリングや、委員の論議の積み重ねによりまとめられたものであり、その内容を尊重すべきです。
② 上記のことは、デジタル社会推進基本法7条が、「デジタル社会の形成は、・・・被害の発生の防止又は軽減がはかられ、もって国民が安全で安心して暮らせる社会の実現に寄与するものでなければならない」と規定した趣旨から逸脱するものです。特商法の書面の電子化は、消費者保護機能を後退させるものであり、さらに、契約書面の一覧性に欠けるスマートフォンでも大丈夫となれば消費者保護はさらに後退せざるを得ないと考えられます。
③ さらに、2021年2月に行為評されたデジタル社会形成関係法律整備法は、32法律について書面交付に代えて電磁的記録の提供を可能としていますが、「原則として技術的な改正で足りるものが対象」であり、「消費者による契約解除の申込み」のように、「消費者・弱者保護や紛争予防の観点等から書面とすることに意義が認められるものは対象としない」という方針でした。事実、どう整備法によって改正された宅地建物取引業法は、重要事項説明書や契約書面は書面の電子化を認めましたが、クーリング・オフの告知書面については電子化の対象としていません。
つまり、クーリング・オフ制度と一体となっている特定商取引法の書面交付義務について電子化を導入したことは、デジタル社会推進基本法ならびにデジタル社会形成関係法律整備法の趣旨に反する改正だと考えられます。

 

2.電子メールの件名・本文に注意表示を明記することを求めます

(該当箇所:なし)

(意見)

検討会報告書には、電子メールによる提供の場合は、件名表示と本文冒頭に電子データの重要性を注意喚起する記載をすべきではないか、という提言があるが、政省令案にはこの点の規定が見当りません。添付ファイルを開いて内容を読もうとする行動に進むことを促すため、政省令またはガイドラインに、件名表示及び本文冒頭の表示について具体的な記載方法を明記すべきだと考えます。

(理由)

① 電子メールの添付ファイルに契約条項を記載したデータを添付して送信されても、その重要性を理解していない一般消費者は、添付ファイルを開かないままクーリング・オフ期間を経過するおそれが強いと考えられます。
この点を踏まえて、「検討会報告書」は、「電磁的方法による提供に当たっては、その提供方法に応じた形で注意事項を明示すべきであり、たとえば電子メールによる提供の場合は、件名表示を消費者にその重要性を認識できるようなものにするとともに、本文冒頭で、より詳しい注意事項を記載すべきである」としています。しかし、政省令案にはこの点を明記した規定はないため、明記することが必要です。
② 省令案8条3項には、「電磁的方法により書面記載事項を提供するときは、申込者が明瞭に読むことができるよう表示すること」と規定されていますが、添付ファイルの電子データの表示方法を指すのか、電子メールの件名や本文の表示方法も含むのか明らかでありません。
③ 具体的には、メールの件名表示に、契約書面に代わる契約データを送付するものであること、メール本文の冒頭に、契約書面に代わる契約データが記録されていることや、電子メールが消費者のメールサーバーに到達した日がクーリング・オフの起算日となることなどの記載事項を規定すべきである。仮に、省令案8条3項に基づいてガイドライン等に表示方法を記載するのであれば、報告書の提言に沿って具体的な表示方法を規定すべきです。その場合、メールの件名表示は、重要性を分かりやすく伝えるため共通の表示方法とすること、メール本文には、上記事項のほか、事業者名・商品名・契約年月日など対象となる契約を特定する事項も記載すべきだと考えます。

 

3.電話勧誘販売の適用対象を拡張する規定に賛成します

(該当箇所)

特定商取引に関する法律施行令及び預託取引に関する法律施行例の一部を改正する政令(案)第2条1項(電話をかけさせる方法)

(意見)

勧誘目的を告げず、ビラやパンフレット配布以外に、新聞、雑誌その他の刊行物に広告を掲載したり、ラジオやテレビ放送、ウェブページ等を利用して、勧誘をするためのものであることを告げずに電話をかけさせることも「電話勧誘販売」として要件を広げたことに賛成します。

(理由)

新聞や雑誌、ウェブサイトなどで、不特定多数を対象にした広告においても、消費者から電話をかけさせることを誘導している場合には、通常の通信販売とは違い、電話勧誘販売の類型となると考えます。たとえば、テレビ放送の広告などを見て、拡大鏡の電話注文した消費者に対して、目に良いサプリメントの購入をさせられたりするなどのトラブルもあります。電話をかけさせて、本来の商品とは違う商品を勧め契約をさせられたり、定期購入の商品であったりなど、悪質な事案であり、早急な対応として、類型を広げたことを評価します。

 

4.電子データの到達・閲覧の確認義務規定に賛成します。

(該当箇所)

特定商取引に関する法律施行令及び預託取引に関する法律施行例の一部を改正する政令(案)第4条3項

(意見)

電磁的方法により申し込みをしたものの使用する電子計算機に備えられたファイルに記録したか否か、および閲覧に支障があるか否かを事業者が確認することを義務付けたことに賛成します。

(理由)

電子データの到達時期がクーリング・オフの起算日となるため、消費者のメールサーバーに到達したことが気付かないうちにクーリング・オフの期間が過ぎてしまうことのないよう、また、送ったファイルを消費者が読むことができる状況であることを事業者として確認することは必要なことであると考えます。事業者の確認を義務付けたことを評価します。

以上