憲法記念日会長談話(神奈川県弁護士会会長)

2020年05月07日

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、日本全国で緊急事態宣言が出される中、73回目の憲法記念日を迎えます。この世界規模での未曾有の危機の中で、日本国憲法に思いをはせることに深い感慨を覚えます。

日本は、先の大戦において、アジアを中心に世界中に甚大な被害をもたらしたことに対する深い反省と、二度と惨禍をもたらさないという強い決意の下、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を柱とする日本国憲法を制定しました。

しかし2012年末から続く長期政権の下、特定秘密保護法や安保関連法案の強行採決、自衛隊の日報隠し、財務省による公文書の改ざん、厚生労働省による統計データの改ざん、総務省による公文書破棄、恣意的法解釈による検事長の定年延長とこれに続く検察庁法改正案の提出等、立法府や行政府による、民主主義や立憲主義を根幹から揺るがす行為は枚挙にいとまがありません。正確なデータの収集、検証可能な事実の開示、恣意的な解釈によらない法の適用は、民主主義や立憲主義の大前提であり、これらが蔑ろにされていることについて、神奈川県弁護士会は一貫して、抗議の声を上げてきました。

このように民主主義や立憲主義への危機がかねてより叫ばれる中で、新型コロナウイルスが発生しました。前例のないこの危機を乗り越えるために、どのような社会の在り方を望むのか、今私たちは重大な選択を迫られています。

この点、政府が強権発動して問題に対処すべきとの意見も聞かれます。実際安倍首相は、緊急事態宣言と同時に、憲法を改正して緊急事態条項を導入することに意欲的な発言をしました。しかし、新型コロナウイルスへの対応にとどまらず、緊急事態に対処する上で、憲法を改正して緊急事態条項を盛り込む必要はありません。現行の憲法下で、すでに成立している法律を駆使することで、対応は十分に可能です。

日本国憲法に緊急事態条項がない理由について、制定時の憲法担当国務大臣金森徳次郎氏は、「言葉を非常ということに借りて、それを口実に(権利や自由が)破壊されるおそれが絶無とは断言しがたい」と説明しました。私たちは、この言葉の意味を今一度かみしめ、ウイルスに抗うのと同じだけの細心さと慎重さをもって、「非常」という言葉で人々の思考を停止させようとする流れに抗うことが必要です。

また私たちは今、自由や権利を制限され、先の見えない不安の中で、息が詰まるような生活を送っています。しかし少し想像力を広げれば、平時においても、人種、国籍、宗教、障がい、貧困、性の在り方等の様々な理由から、基本的人権が抑圧され、息詰まる生活を強いられている人々がいることに気づかされます。私たちは、私たちの生命を脅かすウイルスと戦うのと同じ覚悟で、差別や格差との戦いに挑み、すべての個人が等しく尊重させる社会を目指す必要があります。

新型コロナウイルスの感染拡大が収束した後、社会や経済の在り方は、大きく変貌することが予想されます。しかし、日本国憲法が掲げる理念は、人類普遍の原理として、コロナ以後の社会においてより一層、その重みを増すであろうことに疑いの余地はありません。

神奈川県弁護士会はこれまでも、憲法が生かされる社会を目指して、努力を重ねてきました。そして今この未曾有の事態に直面し、改めて、弁護士の使命である、基本的人権の擁護と社会正義の実現に向けて、より一層真摯に活動を続けていく所存です。

2020年5月3日
神奈川県弁護士会
会長 剱持 京助