「消費者裁判手続特例法等に関する検討会」報告書についての意見(消団連)

2021年11月04日

消費者庁長官 伊藤 明子 様
消費者裁判手続特例法等に関する検討会
座長 山本 和彦 様

神奈川県消費者団体連絡会
事務局長 庭野 文雄

「消費者裁判手続特例法等に関する検討会」報告書についての意見

消費者庁では、懸案であった消費者裁判手続特例法の見直し等のために、本年「消費者裁判手続特例法等に関する検討会」を設置され、この度報告書(以下、本報告書という。)をとりまとめられました。
本報告書の内容は、消費者団体訴訟制度(被害回復)(以下、本制度という。)をその制度目的に従って、より円滑に活用できるよう、幅広い観点から多くの改善すべき点を提言いただいたものとして、賛同する点が多いものです。
本報告書において、(特定)適格消費者団体が運営の主体となる消費者団体訴訟制度の意義を位置づけ社会的インフラであることを明示したことや、「制度のスタートアップを加速して自立的サイクルが機能する状態に速やかに導くべく、強力な梃入れのための支援が必要」と記載したことは高く評価できます。
本報告書の提言を早急に具体化され、次期通常国会での消費者裁判手続特例法(以下、特例法という。)改正及び特例法の解釈明確化を進められることを要請します。
以上の見地から、以下意見を申し述べます。

第2 被害回復裁判手続の制度的な対応について

1. 対象となる事案の範囲

(1) 請求・損害の範囲の見直し

【意見の内容】
①画一的に算定される慰謝料を、本制度の対象とすることに賛成します。
②個人情報漏洩事案について、上記の画一的に算定される慰謝料請求から切り分けて検討することには反対します。仮に、切り分けて別途の取り扱いをするとしても、事業者の「故意」に限定せず、少なくとも故意とどうしできる「重過失」も含めるべきです。
③慰謝料以外に対象外とされている損害(いわゆる拡大損害、逸失利益及び人身損害)について「将来的な検討課題」とするのではなく早急に検討を開始すべきです。
【意見の理由】
①慰謝料については本報告書に記載のとおり、慰謝料として相当多数の消費者に同一額ないしは共通の算定基準により算定される額が認定される場合が想定できることから画一的に算定される慰謝料を本制度の対象とすることに賛成します。
②個人情報漏洩事案は、共通の原因によって多数の消費者が定型的に被害を受ける典型例であり、かつ、漏洩による精神的苦痛の評価も定型的な判断が可能な場合が多いと考えられます。また、個人情報漏洩事案の賠償額は低額にとどまり、権利行使をしない被害者も多いことが想定されることから、本事案は正に本制度による救済の必要性も高いものです。このため、故意による漏洩の場合のみを本制度の対象とし,過失による漏洩を対象外とする理由はないと考えられます。少なくとも「重過失」による漏洩事案については対象とすべきです。
③慰謝料以外に対象外とされている損害については「将来的な検討課題」とされていますが、拡大損害、逸失利益及び人身損害、並びに特別法上の不法行為を一律に対象から除外することに合理性はありません。早急に検討を開始すべきです。

(2) 被告の範囲の見直し

【意見の内容】
悪質な事業者において代表者及び実質的支配者を被告に追加することに賛成します。
ただし、事業者以外の個人を被告に含める場合の要件として、事業者が故意・重過失により不法行為責任を負う場合で、かつ当該個人も故意・重過失により共同不法行為責任を負う場合と、二重に限定を加えることは要件が厳格に過ぎることから反対します。
【意見の理由】
多数の被害を生む消費者事件の典型ともいえる投資利殖商法やマルチ商法等では、法人だけでなく、実際に利益を得ている役員や首謀者に責任追及ができなければ、実効性のある被害者救済は実現不可能です。また、通常の訴訟においては、事業者の役員等も当然に当該事業者とともに被告となり得るのであって、これと区別すべき事情はないと考えます。
ただし、その場合の事業者の不法行為責任を、故意・重過失によるものに限定した上、
共同不法行為責任を負う個人についても,故意・重過失によるものとしている点は、本来、個々の消費者との関係では、過失であっても不法行為責任を負うものであることを踏まえると過重にすぎることから要件を緩和すべきです。

 

第3 特定適格消費者団体の活動を支える環境整備

【意見の内容】
消費者団体訴訟制度の実効的な運用を支える者を指定法人とし位置づけ、行政からの必要な支援を行うことに賛成します。
また、(特定)適格消費者団体の事務負担の軽減や、特定認定を目指す適格消費者団体への補助金交付などの支援を求めます。
【意見の理由】
消費者団体訴訟制度の実効的な運用を支える第三者的な主体を法的に位置付ける指定法人制度を導入することは、(特定)適格消費者団体への支援につながるものであり賛成します。指定法人制度を実効性あるものとするために、指定法人の人的・物的・財政的体制を確保することは重要であり、そのために、指定法人に対する資金援助を含めた十分な公的援助について検討をお願いします。
また、被害回復制度の実効性をより向上させるに当たっては、担い手となる特定適格消費者団体への支援や、さらに認定団体が増えていくことが必要です。消費者団体訴訟制度等への理解促進や、(特定)適格消費者団体の事務負担の軽減等の支援とともに、特定認定を目指す適格消費者団体への補助金交付などの支援を求めます。

以上